仙丈岳’97

吉永 耕一 + 厚子 + 真以 + 実香 





家族で山に登るのも愉しい。長女の真以が生まれて間もない頃、京都と大阪の境、天王山に娘をおぶって登った。カリマーの背負子は担ぎやすかった。京都のポンポン山にも登った。長女が歩けるようになって、二人で家の近くの男山にちょっとした山登りをした。長男の俊介が生まれ、次女の実香がうまれ関西から関東へ転居した。北八ヶ岳の白駒池周辺を散策したり、富士山の水が塚から御殿庭へと登った。この時は次女が背負子におぶられていた。可愛い赤い靴を片方おとしてしまった。『登り俊介、下り真以』とそれぞれのお得意があった。

山に登るより家族でキャンプに興じる機会が多くなった。オート・キャンプで富士のすそ野の大野路や美ケ原へ出かけた。富士西麓の田貫湖でどしゃ降りの中キャンプして、ブヨにやられた。磐梯や妙高笹が峰や乗鞍でキャンプを楽しんだ。

長男が小学5年生のとき、二人で富士山に登った。『ゆっくりゆっくり、止まらずに登ろう』と山頂に宿泊し、ご来迎を迎えることができた。次女も小学6年生で妻と三人ずれで水が塚(1500メートル)から富士に登った。

会社の丹沢集中登山に長男や次女を連れて登り、妻も一緒に四季の丹沢に出かけた。93年長男、次女、妻とともに鳳凰三山を縦走した。台風一過の日の出が印象的だった。直後息子と北岳に登った。

妻とは、もともと大学生の山岳部時代に一緒に剣岳に登った経験もある。最近では丹沢に登ったり出羽三山に行く機会に恵まれた。

長女を含めて家族全員で登ったと言えば、箱根の金時山ぐらいだ。

長女と一緒に登る機会が少なかったので、何とか機会をつくろうと考えていた。この夏に富士山で水が塚から宝永火口へ登り、足腰のトレーニングをして、3000メートル級の仙丈岳を目指すことにした。高校山岳部の夏合宿で穂高に出かけた長男を除いて、親子4人のパーティだ。

8月20日(水)晴れ

北沢峠は、一般的に言う見晴らしの良い場所ではない。樹齢のかなりあるシラベの生い茂った湿っぽい南アルプスらしい峠だ。北沢峠から西(長野)方面に歩きはじめる。スーパー林道から登山道にはいると、しばらく下りだ。下りきった太平(たいへい)小屋のわきから緩やかな上りとなる(薮沢新道)。いかにも南アルプスといった苔むす針葉樹林は涼しい。急登もあるが概ね登りやすい。

大滝のみえる樹林の稜線からやがて薮沢の右岸になる。8月も20日ともなれば雪渓はない。沢をわたって左岸を登る。途中崩落区域がある。そのまま、左岸伝いのふみあともあるが、一端右岸に導かれ、また左岸に戻る。規模は比較的小さい。北岳の大樺沢を思い出す。振返ると甲斐駒ヶ岳の前衛、双児山が間近だ。

薮沢コースで期待していた高山植物は時期はずれでほとんど見られない。ムラサキのトリカブトは咲いている。右岸の上から登山パーティの声がする。北沢峠から小仙丈へと登っていった韮崎高校の山岳部だ。彼らが歩いた小仙丈5合目からの登山道と合流する。

沢から離れて右上すると程なく馬ノ背ヒュッテに到着。宿泊の受付(一人一泊二食で7000円)とインスタントの昼飯を済ませ、空荷で馬ノ背に向かう。2700メートルの馬ノ背もシナノキンバイやクロユリ花の時期は終わっている。リンドウの蕾はある。ハイマツの中の空き地に座って周囲の景観を楽しむ。

火口が吹き飛んだような薮沢カールやいたるところで山肌を削った氷河の爪痕が見渡せる。親子で写真をとったりうたた寝をしている間に霧がでて肌寒くなる。やがて遠くで雷の音もしてきたのでヒュッテに帰る。夕立。

ヒュッテには中学2校の団体客があり思ったより混みあっている。到着したときは、布団一枚に頭・足互い違いに窮屈な寝床を指定されたが、夕食後再調整があり、我が家族は別室に移動。布団二枚に三人程度になる。2700メートルだが、寝具は乾燥してTシャツに短パンの山登りの身支度のままで、毛布一枚でも丁度よいくらい。4年前の鳳凰三山の薬師小屋で寒さに震えたときとは大分違う。

8月21日(木)晴れ

4時起床。昨夜もらった弁当と牛乳をザックにつめ、星空の下まだ暗いうちに歩きはじめる。次第に回りの景色が見えてくる。甲斐駒ヶ岳が特長的な山頂部を見せている。足下の草が露に濡れて美しい。小高い尾根の上からの西側の展望がすばらしい。中央アルプスが直ぐ近くだ。追い抜いた中学生の団体から追われるように薮沢カールの底までたどりつく。結構ハイペースで登った。

休まずにカールの底から岩屑の斜面を登る。稜線に近づくにつれ急傾斜になる。回りの展望はさらにすばらしくなる。

少し風のある3033メートルの仙丈岳山頂はTシャツに短パン姿では寒い。雨具の上着を実につける。懐かしい北岳と富士山が背比べをしている。薄い紫色の濃淡となった北岳に連なる間ノ岳、南アルプスのやまやま。中央アルプス、その向こうの御岳。乗鞍から笠、穂高・槍のやまやま。続く北アルプス。直ぐ近くの鋸、甲斐駒ヶ岳、鳳凰三山。登った山はなつかしく、まだ、未踏のやまには憧れがある。

山頂で朝食をすませ、薮沢カールと大仙丈カール・小仙丈カールに削られた頂稜部を歩く。スッと切れたってやはり登り易い山とはいえ、3000メートル級の高山の趣は十分だ。

小仙丈尾根を下るとやがてハイマツ帯となり、2855メートルの小仙丈岳に着く。もう一度小仙丈カールにそびえ立つ仙丈岳、馬ノ背、鋸岳、甲斐駒ヶ岳を瞼に焼き付ける。

初心者の長女には急な下りはやはりつらいようだ。5合目の大滝の頭で次女の履いていた軽登山靴に履きかえる。ここからは『登りは大変だろうね』と思わず口に出る急下降が続く。『いや、白凰峠からの下りが大変』と経験者の口から聞こえてきそう。背の高い針葉樹林の中を下って、出発した北沢峠に降り立つ。(1997年8月23日記)

<気づいたこと>
−父の形見のコンタックスはレンズ、カメラとも重たいが、コンパクト・カメラに比べ撮影した画像の質は格段に高い。
−下りは前傾姿勢がスリップ止に有効。
−つま先を下げ、接地時に意識的に膝のクッションを利かす下り方がよい。下りは技術。
−比較的急な小仙丈5合目の大滝の頭からの下りではステッキを使わず、二本足で下った方がバランスをとりやすい。
−15キロ程度なら腰、背中、肩に分散過重できるザックで縦走できる。


<行動記録>
8月20日(水)晴れ
  4時40分 横浜市自宅発 柿生・黒川・多摩、府中より中央高速、甲府昭和より竜王、芦安、夜叉神を経て
  8時00分 広河原着
  9時00分 広河原発 芦安村営バス (片道550円、荷物200円)
  9時30分 北沢峠着
  9時50分 同上発
 10時42分 大滝展望所下着
 11時00分 同上発
 11時43分 薮沢渡り着
 12時03分 同上発
 12時48分 薮沢左岸 
 13時03分 同上発
 13時15分 馬ノ背ヒュッテ着 1泊2食7000円 
        馬ノ背周辺散策

8月21日(木)晴れ
  4時00分 起床
  4時40分 馬ノ背ヒュッテ発 
  5時00分 馬ノ背上
  5時10分 同上発
  6時00分 仙丈岳(3033メートル)着 朝食
  6時50分 同上発
  7時25分 小仙丈尾根鞍部着
  7時30分 同上発
  7時50分 小仙丈岳着
  8時10分 同上発 
  8時49分 大滝の頭肩着 
  9時15分 同上発
  9時45分 三合目着
  9時55分 同上発
 10時24分 一合目上着
 10時35分 同上発
 10時50分 北沢峠着
 11時40分 同上発 乗客が20人以上集まり臨時の村営バス
 12時10分 広河原着
 12時30分 同上発 芦安白峰会館(温泉) 甲府昭和より中央高速、府中、多摩、黒川、柿生 青葉台にて夕食 
 18時40分 自宅着

 


Last modified 06/25/98

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