Mt. Rainier

吉永 耕一  



USGS Aerial Photograph 20 Jul 1994 + GPS Log



 

  

Day 0

出発の前日、Seattle Center近くのAAIオフィスでギア・チェック・ミーティングに参加した。全装備を持ちより、ガイドが一つ一つの装備を確認する。レーニア山登頂の日は3リットルの水が必要という。1リットルの水筒を購入する。

今回のガイドは、リーダーのNeil、Dave、ロシア人のDmitry、シェルパのLhakpaの4人、参加者は一人キャンセルになって、女性を一人含む8人の計12人のグループだ。Dmitryは本日までベイカー山Bakerに登っていて明日参加する。

Neilが何度か、このRainier登山には、フィジカルな力とメンタルな部分との両方が必要と説く。

Day 1

AAIオフィスの近くのホテルで4時起床。5時にオフィス集合。まだ朝あけやらぬ駐車場で個人用食料(昼食)と、グループ用食料、装備(燃料、ピケット、テント用ポール)を受け取り、パッキングを行う。パックは30kg前後になる。

荷物車を牽引した11人乗りワゴンと4WDとの2台で6時半に出発。White Riverのインフォメーション・センターで入山届を提出し、8時50分にホワイト・リバー・キャンプ場(標高1,312m)へ到着。例のBlue Bagも4回分配布される。

歩きやすく気持ちのよい森の中のトレイルをGlacier Basin(標高1,808m)へ進む。ここからアルペン的な景観に変化する。氷河の残したモレーンの上を通過し、ところどころ苔やコケモモに似た花が咲く庭園の中を進む。やがてインター氷河(Inter Glacier)の末端へたどり着く。雪原の始まりで氷雪技術のクイック・レビュー。雪の斜面を登ったり,降りたり、様々な位置から滑落停止(Self Arrest)を行う。

インター氷河の急なスロープをスイッチ・バックで登る。パックの重さがずっしりとくる。途中からロープ・チームを組む。ところどころ口をあけるクレバスを避けながら登る。キャンプ・カーティス(Cump Curtis)下の氷河(標高2,600m)にキャンプ。テントの設営が終わるころには暗くなりはじめ、風が出で来る。夕食の準備の間、氷河歩行(Glacier Travel)のロープ結び(Rope work)のレビュー。夜間はずっと風が出でいる。

Day 2

ロープ・チームを組み、アイゼン(crampon)をつけて出発。インター氷河から岩棚をおりて、アラスカを除く米本土で最大面積のエモンス氷河(Emmons Glacier)へ。なるほどでかい。いたるところにクレバスやアイス・フォール(Ice Fall)がある。スチーム・ボート・プロウ(Steam Boat Prow:蒸気船の船首に似た地形からよばれる)キャンプ・シャーマン(Camp Schurman標高2,900m)を経て、キャンプ地のエモンス・フラット(Emmons Flat 標高2,950m)に到着。

ここで、初めてBlue Bagを使用。気温は高く、小雨が降る。テントの中で休憩。ガイドのDaveが早い夕食の鍋をテントまで運んでくれる。17時就寝。風がぴたりとやむ。22時45分腕時計のアラームに促されて起床。ホットドリンクでと早い朝食。登頂準備。

Day 3

午前0時、満天の星の下、キャンプサイトのエモンス・フラットをヘッドランプの明かりをたよりに出発。エモンス氷河ルートをガイド4人と参加者5人とで、3パーティのロープ・チーム構成になる。私はロシア人ガイドのDmitryと参加者のMarksとのチーム。

登り始めて1,2時間、中々調子が出ない。ペースが遅れがちになる。Neilのアドバイスで加圧呼吸(pressure breath)で力をこめて息を吐き出す。不思議なもので動きが軽くなる。酸素不足だった。休憩の度に水を飲み、意識的に食料(持参した消化のよいペースト糖分、炭水化物)を口にする。

傾斜のあるルートを登りつづけると、アイゼンを着けた足の筋肉が大いに疲れる。交互にサイド・ステップのフレンチ・スタイルで登っていく。Neilが「テクニックでエネルギーをセーブ」とアドバイスしてくれる。

やがて東の空が明るくなってくる。周囲は晴れ渡って、すばらしいながめだ。登ることに集中していると、やがて一瞬にして朝日の光が飛び込んでくる。

おおきなクレバスを回り込んだり、急な壁のところでは、ピケットで確保点をつくり登っていく。1箇所、アイス・クライミング乗り越したところがあった。

頂上火口縁(Crater Rim)部分は、岩が剥き出しとなり,石と小石大の氷だ。9時に頂上コロンビア・クレスト(Columbia Crest 標高4,393m)に到着。羽毛ジャケットをはおっても、寒いくらいだ。やったぞとパーティで抱き合い、記念写真に収まる。

紺碧の空が広がる。低いところに羊のような雲が湧き上がっている。南の方にはアダムス山(Mt. Adams)見える。頂上火口は氷で満たされているが、周囲の縁は岩がでている。蒸気熱の影響だという。

小一時間、頂上に滞在して下山にかかる。午後になると気温の上昇でクレバス帯のスノウ・ブリッジが崩壊しやすくなり危険が増す。リーダーのNeilは早くパーティを安全なところへ下ろしたいようだ。登りとほぼ同じルートを下山。パーティのMarksの足の爪がはがれて、我々のパーティは、遅れて15時にエモンス・フラットに帰り着く。

体調不良で山頂へ向かわなかったメンバーがスープをつくって迎えてくれる。頂上に立てて良かったねと祝福してくれる。

キャンプ・シャーマン駐在のRangerが、エモンス・フラットに置かれたBlue bagの集積缶を背負子で担いで、シャーマンまでおろしていく。自然環境を維持するのにも大変な労力が必要だ。

午後7時夕食。豆入りのライスをお代りをした。一日中天気に恵まれた。キャンプ・サイトから先週登ったベイカー山やNorth Cascadesの山々を時間を忘れて、ずっと眺めていた。

Day 4

ゆっくり6時に起床。キャンプを撤収し、7時半にエモンス・フラット下山開始。ロープ・チーム、アイゼンでインター氷河を下山。末端まで来るとさすがに暖かい。着ていたフリースを脱ぎ、身軽になってトレイルを下る。ゆっくり庭園を眺めてみると、いたるところに高山植物が、今を盛りに咲き誇っている。苔の緑も美しい。行き来する人の数は少ない。

12時15分にホワイト・リバー・キャンプ場に到着。団体装備を返却。帰りのワゴンの中でいつの間にかうたた寝。16時にシアトルのAACオフィスに到着、解散。迎えにきた同じテントのAaronの奥さんに車でホテルまで送ってもらう。

今回の山行で感じたこと

1. レーニアの山旅は4日間の行程にうまくデザインされている。森のトレイルからアルペンのトレイル、氷河歩行、真夜中出発の登頂(Summit Bid)。ドラマティックな展開だ。そして、なによりレーニア山は大きな山で、エモンス氷河も中々のものだ。

2. アメリカ人の自然環境への取組み。入山者数を制限し、Blue Bagの使用を義務付け、また、回収にも多くの労力を費やしている。国情は異なるが日本も見習うべきところが多い。

3. ガイドの登山スキルはしっかりしている。シェルパのLhakpaもエベレストに4回登ったという。必要なときにKoichiと呼んで適切なアドバイスをしてくれた。Neilも呼吸法、疲れにくいアイゼン歩行の上り下りなど適切なアドバイスが役だった。ガイドは食事の準備から、設営の手伝い、ロープ・チームのリードと休む間もなく働く。彼らが準備してくれた個人用昼食や、携行する水の量は、小柄な日本人の私にとって若干多い。

4. 昨年、North Cascadesでロープ・チームを組んだDaveは、今回、同じテントのJoelと共に働いているという。Daveもこの7月にレーニア山の頂きに立った。昨年、一緒だったLindaも7月にレーニア山に登り、タフだったとメールでアドバイスしてくれた。同じテントのAaronもとても親切な人だ。また、アメリカ人の山仲間が増えて嬉しい。I hope our paths will be crossing again.

5. 昨年来、トレーニングの時間を増やして体力がついてきたと思う。30kgのパックを担いで行動できた。しかし、呼吸法やペース配分もふくめ、もう少し努力したい。アラスカをはじめ未知の白い山々をめざしたい。



Last modified 2/1/2020

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