Mt. Baker

吉永 耕一  



Day 1

ガイドのPatがモーテルまで迎えにくる。5時半。一年ぶりの再会。PatとBarbaraの生まれたばかりの娘さんへの妻からのプレゼントを渡す。登山用具を彼のTOYOTA 4WDバンに積み込む。I-5を北上。薄明るくなった中でノースカスケードの山並みが幻想的な景観をつくっている。晴れているのに濃い霧でフリーウェイがよく見えない。

ノースカスケード・ハイウェイにはいって、Sedro-Woolleyのフォレスト・サービス・センタに立ち寄り、登山届を出す。早い時間はオフィスが閉っているので、屋外の届け箱の用紙に記入する。Patは他の届を見ている。顔見知りのパーティがべーカー山に入っているようだ。話しに聞いていたBlue Bagも入手する。昨年も立ち寄ったグロサリー・ストアで軽い朝食を購入。

ノースカスケード・ハイウェイからベーカー・レーク・ロードに入る。特徴的なシュクサン山(Mt. Shuksa 標高2,782m)の南面が見える。未舗装のナショナル・フォレスト道路を左折し、やがてパーキング・ロットがあるシュリーバーズ・メドウ(Schriebers Meadow)に到着。ここがトレイル・ヘッド(標高1,025m)。

私が背負う共同装備の分担分は、食料の半分とテントのポールだけでいいと遠来の客に気配りしてくれる。整ったトレイルが続く平坦なメドウから流れを数回横切って、少し勾配がある森林の山道になる。馬糞がところどころに落ちている。ビッテ・ルックアウト(Butte Lookout)への資材運搬に馬を使っているのだろう。

Patが1時間40分ほど歩いて初めて「水を飲もう」と休憩をとる。さらに進むと森林が開けて、草地となり、はじめて大きな白いベーカー山が見える。南面のイーストン氷河(Easton Glacier)がすぐにわかる。アイス・フォールが見える。白い氷河の山だ。

イーストン氷河の側モレインの上をたどリ登っていく。殆ど完璧な6度の勾配(grade)なのでRail Road Gradeと呼ばれている。このモレインが延々と続く。犬ほどのおおきなマーモットを見た。やがてスノー・フィールドを登って、トレイル・ヘッドから約5時間でテント・サイトに到着(標高約1,900m)。雪解けの水たまりがある岩場で、最適な場所だ。他のパーティはいない。とても静かな環境だ。Patも「だれもいないなんて」と喜んでいる。

テントを設営すると、早速、「アイス・クライミングをやろう」とクレバスに向かう。最初、数メートルのところから、だんだんと深いクレバスにロープで私をぶら下げて、「さあ登って来い」と言う。最初はおっかなびっくりで、バランスが悪かったが、だんだん良くなる。

テントに帰ってしばらく休憩。やがて夕食の準備。私の好みにあわせてパスタだ。晴れていてテント・サイトから見る景色はすばらしい。近くにツイン・シスターズ(Twin Sisters)の山なみ。遠くに、印象深いグレーシャー山。さらに遠くに一層大きな塊のレーニア山がそびえている。

Patが「Think about」と言って、明日ベーカー山の頂上をめざすよう勧めてくれる。行ってみよう。

Day 2

朝食はシリアル。炭水化物でこれは結構、腹持ちがいい。昨年の6 Days Mountaineering Schoolで初めてシリアルのミューズリー朝食を経験した。山登りにはお湯を注ぐ程度の手軽さと、必要な栄養が充分取れる。

ベーカー山の山頂部分は、グラント峰(Grant Peak)があるプラートーとシャーマン峰(Sherma Peak)と頂上火口(Summit Crater)とで構成される。グラント峰が最高点で3,286m。頂上プラトーの東に位置する。頂上火口はプラトーの南に位置し、今でも水蒸気を出している。そのさらに南にシャーマン峰がある。ノースカスケードの最北部、最西部に位置し、海からわずか55kmという地理的条件により、冬に多量の降雪があり、氷河を発達させている。レーニア山ほどの存在感は無いにしても、その美しい形状は心に残る山だ。

キャンプ・サイトから火口西側の岩壁をめざして登る。全般に20度を超える程度のゆるやかな斜度だか、ところどころ、クレバスを超えるところで急傾斜な部分やドキドキするトラバースがある。

火口の縁から頂上プラトーまでが30度前後の傾斜になる。頂上プラートーにでて、北東に進むと最高峰のグラント峰となる。8月で最高点の周りは、土がむきだしになっていた。日本の山頂では考えられないことだか、標示は何も無く、ワンド(旗)が1本立ててあった。2日めも快晴。周囲の景観がすばらしい。北東側には、雲の中でハイキングしたヒーサー・メドウ(heather Meadows)のアーティスト・ポイントが見える。その向こうにシュクサン山。さらに北には、一度は訪れたいピケット山群(Picket Rage)が確認できる。北西側には国境を超えてカナダの山々、コースト・マウンテン(coast Mountin)が広がる。Patに聞いてみたが、ロブソン山(Mt. Robson)のカナディアン・ロッキー(Canadian Rockies)の山やまは見えない。

キャンプ・サイトから往復で7時間半。Patは「Not so bad」と評した。大分降りたところでトレーニング中のパーティに出会った。AAIの6 Days Mountaineering Schoolのパーティだ。登山届をだしたとき、Patが言っていたグループだ。彼らをみていると一年前の私を思い出す。

午後のキャンプ・サイトではゆっくりとした時間が持てた。美しい景観の中で、ストレッチをしたり、お互いの生活や山への関心、次は何処をめざすか、レーニア山登山のポイントなど、とりとめも無いおしゃべりが続いたり、しばらくの沈黙が続いたが、ちっとも退屈しない。

Patは今年、何度も往復したというアラスカ山群(Alaska Range)の話しをしてくれた。ぜひ、アラスカを訪れてみたい。

氷河の横にある尾根の真中に、周囲に壁もない、自然浄化方式のトイレがポツンと一個ある。すばらしい景色を楽しみながら用が足せる。このリッジを下から登ってきたら、何も知らない人はびっくりするかもしれない。おおらかな人たちにだ。

Day 3

テントで目を覚ますと、Patが寝袋にはいったまま、コヒーをいれてくれる。朝のコヒーをすすりながら、テントの中からイーストン氷河の蒼い氷や大きなセラックの塊を間近に見るなんて、まるで夢のようだ。昨夜、何度かロック・フォールのような大きな音がしていたが、聞けば氷河が崩壊する音だという。気温が下がった夜でも、氷河は動いている。

イーストン氷河よりもっと激しく動いているデミング氷河(Deming Glacier)を見に、小高い岩のリッジに登る。上から下へと視線を動かすと、アイス・フォールの連続だ。蒼いセラック群れが織りなすテクスチャーはすばらしい。

アイス・クライミングのトレーニングが始まる。氷河の急斜面を見つけて、確保を取り、アイゼンの登り降りを繰り返す。オープン・フェースの降りに力点がおかれる。次はアイス・ツールを使ったフェイス・クライミング。いきなりオーバー・ハングで始まる。アイス・ツールが小気味よく氷に食い込む。アイゼンの蹴り込みもよく効く。オーバー・ハングでアイス・ツールにぶら下がっていると、2本繰り返すと上半身に力が入らなくなる。

午前中、アイス・クライミングのトレーニングを繰り返した後、キャンプ・サイトに帰って、下山準備。Patは素早く行動する。瞬く間に彼の準備は済んで、私は取り残されてしまう。登るペースにしても、レスト・ステップでゆっくり、ゆっくりマイペースで私は登る。Patは急げ急げとせかす。氷河のルートは、日中気温があがると、ブリッジの崩壊など危険が高まるからだろう。急ごう。

アイス・フィールドを出て、レイルロード・グレードを下る。この径の上は涼しい風が吹いて快適だ。メドウでベーカー山をもう一度、写真に収める。スイッチ・バックのトレイルを下り、出発のパーキング・ロットへ至る。ここで、Patと握手。

Sedro-Woolleyのフォレスト・サービス・センターに立ち寄って下山届を提出。I-5に乗ってLynnwoodのモーテルまで送ってもらう。アラスカでの再会を約束して分かれる。

I hope our paths will be crossing in Alaska soon.



Last modified 2/3/2020

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